東京都 石川 彩弥子 (50代)
「脱ステロイド」から「標準治療」への道のりと、学んだこと・日頃工夫している事をお話しさせて頂くことになりました。最後までどうぞよろしくお願いいたします。
<医療に対する諦めと不信から脱ステへ>
「この子は肌が弱いですね」、新生児検診で母は言われたそうです。幼い頃から皮膚科通いだった私は痒みで辛い事が多かったものの処方されるステロイド軟膏を毎日塗ってさえいれば何とか普通の生活を送れていました。ところが、二十歳を迎えた頃、友人に紹介された自然派化粧品のお店で「ステロイドは身体に悪い、今すぐ使用を止めて身体から毒を出し切らないとアトピーは根本的に治らない」と強く勧められた事をきっかけに「脱ステ」に踏み切りました。皮膚科では毎回同じ薬を処方されるだけで治る気配はなく、医療への不信と諦めの気持ちが積もっていたこと、また、ある民放の報道番組で「ステロイド・バッシング」が話題になっていたこともあり気持ちに拍車がかかりました。
<死の恐怖>
その結果、わずか1~2週間で皮膚症状が悪化し、頭のてっぺんから足の先までドロドロ・グチャグチャな皮膚になってしまいました。「強烈な痒み」と「かき壊した傷の痛み」 「炎症の熱」でまともに動くことも出来ません。下着や部屋着は血液と浸出液がへばりつき、それはお布団にまで染み出してシーツは剝がれ落ちた皮膚で真っ黒になる程でした。 その浸出液はとても嫌な臭いで「このまま腐って死んでしまうのではないか」という恐怖を何度も味わいました。眼を開くことも辛く眉毛やまつ毛は掻き壊してしまいありません。 髪の毛も軽く引っ張ると面白いように抜けていきました。自分の姿を見たら生きている自信が持てず、次第に生活空間の明かりを消して姿が映り込みそうな物は一切見ない様になりました。あの時の私は「感情というか心を殺して」「とにかく、呼吸をするだけで精一杯、やっと生きていた」と思います。
外出できる日もありましたが、そんな酷く辛い生活が10年近く続きました。
嬉しい事や楽しい事がある今、「生きていて本当に良かった」と思います。
<「脱ステ」に疑問を抱き始めた30代、拘りを手放し新たなステップへ>
30代に入り思いがけない出会いがありました。脱ステ治療を希望して行った漢方専門の病院で「漢方薬を飲みながら『ステロイド』や『プロトピック』を使ってみませんか?」と勧められたのです。「絶対に嫌だ!」と拒絶する私に、その病院のスタッフは「薬が怖い」という頑なな気持ちを何回も長い時間を掛けて聞いてくださいました。あの時、気持ちを受け止めてもらえた事は「大きな安心と信頼に繋がった」と思います。そのお陰で、ほんの少しお薬を使える様になりましたが、結局、コントロールは出来ず安定した生活を送ることは出来ませんでした。
そんな時でも有難いことに私を心配して声を掛けてくださる方がいたり病院で知り合った沢山のアトピー仲間の中にはサッサと治療をして社会復帰をしている人、結婚・出産をしている人、海外旅行を楽しんでいる子もいました。「彼らと私の何が違うんだろう?」30代も後半になったある時、「ふっ」と疑問が湧いてきたんです。「アトピーの症状を受け入れて楽しく生きている人達がいる。他にも世の中には様々な病気と闘い、薬を使いながら一日の命に感謝をして精一杯生きている人達が沢山いる。その薬とステロイドの何が違うの? ステロイドは本当に毒?勘違いをしているのは私かもしれない…。」そう気が付くと「もう、このままじゃいけない!人生を変えたい!」と心が動き始めました。この時やっと「脱ステへの拘(こだわ)り」を手放すことが出来たのです。
丁度その頃、幸運にも信頼している方から標準治療を勧めて頂き、友の会で常任顧問をされている江藤隆史先生を紹介していただきました。
<医師と二人三脚で取り組む治療、180度変わった日常生活>
不安と緊張で迎えた江藤隆史先生の初診日、順番を待っていると診察室から大きな笑い声が聞こえてきます。先生はとても気さくで治療についての説明や質問に対する答えも明快でした。「この先生を信じて治療をやってみよう!」と心を決めました。また、先生は「頑張らなくていいんだよ」「楽しんで」といつも励ましてくださり、信頼できるお医者様と二人三脚で治療に取り組めることは患者にとって何よりの幸せだと、その時思いました。
江藤先生のご指導通り処置をすると2~3日で痒みが治まり始め、それまで地獄の様に苦痛だったお風呂は快適で食事も取れる様になり身体も自由に動かせるようになっていきました。一言でいうと生活全般が楽になりました。
それでも、どうしてもコントロールできない強烈な発作のような症状が起こることがあり、5年前から注射剤もスタートしました。もちろん標準治療が基本です。今は季節や疲れなど多少の波はありますがお陰様で以前の様に入院しなくてはならないほどの悪化はありません。
この経験を通して、立ったり座ったり笑うなど表情を作ったり、生活の中で意識もしていない全ての動きで皮膚が伸びたり縮んだりして身体を守ってくれていることを知りました。「当たり前なんて一つもないんだっ」と思うと自分の身体が愛おしくなります。
<正しい治療・日頃から工夫していること>
標準治療という基本にのっとり、●症状にあった薬のランク●適切な量●正しい塗り方(フィンガー・ティップユニット)●スキンケア そして、医師の指導のもと治療を途中で止めない事が大切だと身を持って学びました。やはり、以前は軟膏の強さ・量が十分ではなく塗り方も悪かったのです。既に治療を始めているのに症状が落ち着かない方は、もう一度この基本を見なおしてみてはいかがでしょうか!また、日々の治療を行うのは自分なのでお医者さま任せではなく自主的な心持ちが大切だと思います。
ここで、私が実践している「より良い診察を受ける為の工夫」をご紹介します。
1 質問メモを用意しましょう
2 患部の写真を携帯で撮っておきましょう
3 患部を診て頂きやすい服装で行きましょう
4 どんなに些細なことでも遠慮せず主治医に相談しましょう
次に、「自身のトリセツ作成・パターンを知る為の記録のススメ」として、
私は一か月を見開きで見られる手帳を使っているのですが、そこに仕事やプライベートの予定の他に肌の調子が一目でわかる様にしています。ちなみに私は調子が悪い時ほど「↓」の本数を多く記入しています。その他、お通じやお天気情報(花粉・黄砂など、女性でしたら生理のリズムは重要)。これを続けていくと「自分の体調を崩しやすい時期やパターン」が少しずつ見えてきます。例えば、季節の変わり目や仕事の忙しい時、生理前後、その他にもストレスや環境の変化、様々な要因で悪化する事があるようですので、調子が悪くなりそうな時は数日前からお薬をしっかり使って整えておくのも有りです!私は以前、急な悪化で年中プチ・パニックなっていましたが、この手帳を振り返ることで「最近、忙しかったから疲れが出たのかな、処置をしてゆっくり休もう」と落ち着いて対処できる様になってきました。
<食物の摂取について、ポイントは自己観察>
また、私はアナフィラキシーを起こすような食物アレルギーはないのですが、時々、朝起きると顔が赤くなっていたりブツブツが出ている事があります。こういう時にも「昨日、何を食べたかな?」と振り返り、思い当たるものがあれば控える様に心掛けています。あと、納豆は小さいパック1つなら大丈夫だけど通常サイズを1パック食べると胸の辺りがムズムズと痒くなることがあるんです。どうやら、普段はなんでもなくても疲れて体力の落ちている時には反応する食品もある様ですので自己観察をしながら自分にとっての適切な量や内容を知っておく事は大切だと思っています。
<心境の変化>
私は劣等感の塊でアトピーの自分が大嫌いでした。そんな私を家族が支えてくれ、沢山の人達が励まし続けてくれたお陰で、肌だけでなく色んな意味で他人(ヒト)と比べなくなってきています。更に最近は「今日、何をして楽しもうかな♬」と思う様になりました。「自分に優しく」なってきたのかも?しれません。
なにより、標準治療を始めてから症状で落ち込むことがあっても治療方針で悩むことはなくなりました。
標準治療は安全な治療法です!アトピーの治療薬は今、ステロイド外用薬の他、タクロリムスやJAK阻害剤などの非ステロイド外用薬・保湿剤・内服薬(JAK阻害薬)・注射剤(生物学的製剤)などバリエーションが増えコントロールがしやすくなってきています。
<今、伝えたい思い、そして願い…>
アトピーは本来、深く思い悩み、人生・生活をなげうってまで取り組むような病ではありません。正しい治療を行えば普通の生活をエンジョイすることができます。標準治療を知らなかった人、知ってはいたけれど怖くて踏み切れなかった人も「二度と戻らない限りある時間を治療の為に費やさないで欲しい」と思います。残念ながら、過ぎた時間を取り戻すことは出来ません。私自身、悔しさがあります…。
なので、言葉にすると大袈裟になりますが、「一日も早くアトピーの症状と上手く付き合って、自分にしか生きることのできない尊い人生を後悔なく思いっきり楽しんで欲しい」と思います。これが、アトピーに翻弄された私の心からの願いです。このメッセージは、不器用でまだまだ色々とままならない事の多い私自身へのエールでもあります。
私は「私らしく輝くために」標準治療を選択しました。これからもずっと継続していく予定です。そして、アトピーで悩んでいるあなた!そして、ご家族へ…、あなたが「あなたらしく輝くために」標準治療をスタートしてみませんか!!
~あとがき~
6月より3回にわたり、とても恥ずかしいですけれど「ありのまま」をお話ししました。私の体験が少しでもアトピーで悩んでいる皆様のお役に立てれば幸いです。
そして、江藤隆史先生、「友の会」丸山理事、「あおぞら」堀内編集長、機会をいただき大変ありがとうございました。
最後になりましたが、皆様のご健康とご多幸を心より願って終わらせて頂きたいと思います。最後までお読みいただき大変ありがとうございました。