講演会「ここまで来た最新治療」レポート(平成30年11月04日開催)
11月4日東京・神田のフォーラムミカサエコにおいて講演会が開催され、会場は満席で過去最大の100名弱の入場者数となりました。会場後方には、スキンケア用品のサンプル配布ブースや、アレルギー治療に役立つ情報誌のコーナーなどが設置され、来場された方々が興味深く手に取る姿が見られました。武川理事長の挨拶と当会の紹介に続き、第一部の講演が始まりました。
講演1「広がるアトピー性皮膚炎治療の選択肢」
東京女子医科大学 皮膚科准教授 常深祐一郎先生
アトピー性皮膚炎の治療で、一番大事なことは、塗り薬(ステロイドとタクロリムス)をしっかり塗ることです。また、保湿により、肌のバリア機能を回復させることです。すぐに完治するのはなかなか難しいので、日常生活に差し障りがない状態を維持することが一つの目標になります。
定期的に塗り薬を塗るプロアクティブ療法が効果的です。その際に、ステロイドのランクや量、タクロリムスや保湿剤との組み合わせが大事になります。
ステロイドの強さは、年齢、湿疹の部位とひどさに応じて変わります。①ステロイドを弱めに使う、②ひどくなった時だけステロイドを使うことによって、逆に長引いたり、悪化してしまうケースが多いため、十分な強さのステロイドで治療を開始することが大事です。
症状がひどい時は、シクロスポリンという飲み薬を一時的に使うことができます。また、サイトカインの働きを抗体で抑えるデュピルマブを病院で2週間毎に注射するなど効果的な方法があります。その他にも、かゆみを抑える注射薬など、アトピー性皮膚炎に対する多くの薬が開発されており、今後数年単位で新薬が出てくる見込みです。
ただ、当面は塗り薬をメインとし、飲み薬・注射薬・光線療法といった治療法をサブで使う形になります。
講演2「喘息治療に正面から向き合うコツ」
昭和大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授 相良博典先生
喘息は、アレルギー性の炎症により、気道が狭くなってしまう病気で、世界で2.4億人、日本で1000万人の方が患っており、このうち重症の方は5%程度と言われています。PM2.5などの環境因子と遺伝などの個体因子によって、引き起こされます。
喘息治療の基本は、薬物療法による日常管理です。(昔からの気管支拡張剤に加えて)吸入ステロイド薬(ICS)の登場によって、喘息による死亡者数は大きく減少しています。現在は、吸入ステロイド薬と長時間作用性の吸入気管支拡張薬の配合剤を使うことが一般的です。
住環境の整備、吸入薬のアドヒアランス、合併症の診断(鼻炎やCOPD)などを考慮して、重症の場合には、生物学的製剤を使用することがあります。新しい生物学的製剤は、IgEに作用する抗IgE抗体のゾレア、好酸球に作用する抗IL-5抗体のヌーカラ・抗IL-5受容体抗体のファセンラの3つの薬があります。また、気管支サーモプラスティの熱治療(BT治療)による気管支平滑筋を減少させる治療もあります。
いずれにしても、医師との良好なコミュニケーションが重要です。医師と患者が一体となって意思決定(シェアード・ディシジョン・メイキング)をすべきです。
第2部講師を囲んでQ&Aレポート
【ぜんそく部門】
講演会の盛況そのままに、40人近くがQ&Aに参加し、満室状態でした。
質問は多岐に渡っていましたが、吸入器を含め、薬に関わる質問が多数ありました。
「動悸がするため、気管支拡張剤が使えない。どうしたら良いか」
「味覚異常が出た時の吸入ステロイドの使い方は?」
「不整脈が出る時の吸入薬の使い方は?」
「どのような吸入ステロイドを使っても、声がれ、咳が出る」
それぞれが切羽詰まった真剣な悩みです。
それらの質問に対し、分かりやすく、踏み込んだ回答がありました。漢方薬名、薬の使い分け等、具体的な対処方法を教えて下さいました。まさに、患者が知りたい情報です。
又、鼻の悪い人の吸入方法、エアゾールタイプの吸入のコツは、まるで裏技を見ているように引き込まれました。
常任顧問の坂本先生は、長い質問を手際よく整理して下さり、相良先生は迷いなく回答して下さいました。
お二人とも、一時間に、20近くの質問に答えるために流れるように進めています。
室内には程よい緊張が漂っています。
坂本先生が「どうしたら風邪をひかない様になりますか?」の質問を読み上げますと、「私が知りたいです」と笑顔で相良先生。
真剣勝負さながらの室内に笑いが起こり、和やかな雰囲気に包まれました。
「疲労と寒さが重なった時、風邪をひきやすい」とベテラン会員の発言がありました。
講演内容にもありましたように、又、自身を振り返った時、季節の変わり目に風邪をひいて、喘息を悪化させることがあります。
相良先生からは、①症状が出ていなくてもピークフローの数値が下がった時は治療をする。
②風邪の治療をしながら喘息の治療も続ける。との、ご指導がありました。
そんなやり取りの中、挙手をして「ピークフローって何ですか」の質問がありました。
アシスタント係りの会員が「成人喘息ハンドブック」を開き「34ページに載っていますよ」と示唆しました。
「分からない事は発言し、教え合う」
患者会の基本の姿を垣間見た思いでした。
私達、喘息患者は「鼻かぜごとき」に息の根を止められることがあるかも知れません。治療方法や薬は日々進化しています。正しい情報を得る手段として、これからも「日本アレルギー友の会」をご活用下さい。
【アトピー性皮膚炎部門】
アトピー性皮膚炎部門の「講師を囲んでQ&A」は、同じ会場で常深先生と当会顧問の江藤先生を囲む形式で行われました。今回は来場者数がいつも以上に多く、講演に続きQ&Aも多くの方に関心をもって参加されていました。他の方にも参考になりそうなQ&Aを幾つかご紹介します。
Q1:アトピーに真剣な皮膚科の先生はどうやって見分けられますか?
A1:今日は薬の強さの話、別の日はタクロリムスの話と、毎回色々な話を少しずつ教えてくれる先生、また、アトピー性皮膚炎のガイドラインにのとって、網羅的に話してくれる先生がいいです。
Q2:夏になると顔の赤みがひどく、本人がつらそうです。ステロイドを沢山塗ってもひどくならないのでしょうか?
A2:ステロイドをしっかり塗っても落ち着かない長期の顔の赤みは、酒さ様皮膚炎の可能性が高いです。この場合、タクロリムスなど塗り薬を変えるべきです。
Q3:血液検査をして、石鹸、金属、ハウスダスト、花粉にアレルギーがあります。乳児からステロイド治療していますが、脱ステも怖いと感じ、現在は漢方薬を使っています。ヘパリン類似物質にかぶれるようなのですが、どうすればいいですか?
A3:血液検査の陽性は、抗体を持っているという単純な検査の結果に過ぎないです。その結果を見ても、皮膚の荒れの原因は違うことがあります。皮膚の外側と内側のバリア機能を高めてあげることが大事でして、アレルゲンを気にしすぎたり、過剰な洗濯・掃除は必要ありません。
ステロイド治療については、ステロイドのランク・量・期間があっているかをチェックするべきです。脱ステはやめていただき、漢方は補助として使用すべきです。
ヘパリン類似物質にかぶれるというよりも、湿疹が残っているのでないかと思います。この場合には、ステロイドで治すべきです。
Q4:デュピルマブの副作用はありますか?
A4:副作用はほぼ無く、結膜炎のみが報告されています。また、注射かつ粘りがある液体なので痛みがあります。保湿は併用し、湿疹が出た場合には、ステロイドも使うことになります。
Q5:アトピーに行き詰まった時はどうすればいいですか?
A5:飲み薬のシクロスポリン服用や一時的な入院もよいでしょう。1回アトピーの肌を綺麗にしたという達成体験が重要です。これにより、精神的な余裕ができるので、その後治療を継続していくのが良いです。