当会の療養相談では全国から様々な相談が寄せられ、薬のこと、日常生活で
気を付けること、そして同じ患者として、病気をどうとらえ、どう付き合っ
ていくかというようなこともお話します。
その中から『アトピー性皮膚炎』に関するよくある質問をとりあげました。
アトピー性皮膚炎は一生治らないのでしょうか。
治っている方はたくさんいます。ステロイド外用薬を中心とした標準治療をすることでよくなる病気なのです。
症状がひどいときはずっと一生このままなのか、もっと悪くなってしまうのではないか、何で自分だけがこんな辛い目にあうのかとつらくなってしまうことがありますね。でも一生ボロボロな状態が続くわけではではありません。まずはちゃんと適切なステロイド外用薬を使う標準治療で、皮疹が悪くならないようにしっかりと治療をして、良い状態を保てるようにコントロールをしていくことが大切です。
現段階で自分でステロイド外用薬を塗っても効かないくらい皮疹の状態が難治化しており、心身ともに治療に疲れて自宅でコントロールすることが難しいようでしたら、入院治療もお勧めします。入院をしたら医師や看護師さんにステロイド外用薬を直接塗ってもらうことによって、炎症を抑えるのに充分な量や期間、正しい塗り方を教えてもらえることもあり、徹底した外用薬の治療で皮疹が驚くほど良くなります。ステロイド外用薬の効果に疑問を持っている方もきちんと塗れば効果があることを実感できると思います。また入院して悪化する不安感や自分でコントロールしなくてはいけないというストレスがなくなったり、同じ症状の患者さんと悩みを共有することで精神的にも落ち着いてくるのです。
症状が良くなってもすぐにまた悪くなるのはなぜでしょう。
皮膚の表面上よくなったからと薬を塗るのをやめていませんか?
ステロイド外用薬を塗布して見た目にかさぶたがとれて、でこぼこしていた皮膚が平らになり表面上良くなったから、かゆみがなくなったからとすぐにやめてしまい、またひどくなったら塗布するということを繰り返している方がいます。これを続けていくと、塗布する前より悪化していくことがあります。症状が見た目に軽快している皮膚でもまだ完全に炎症が取りきれていない状態で、ステロイド外用薬をやめてしまうと、すぐに炎症がぶり返すためにかゆみで掻き壊し、簡単にまた皮膚が破壊されてしまいます。このようにステロイド外用薬の間違った使用方法を繰り返していくと、皮膚が厚く硬くなりごわごわし難治化していきます。
ステロイド外用薬には効き目の強さによって5段階のランクがあります。うまくコントロールできている人は、重症である最初は強めのステロイド外用薬を用いて症状を緩和し、十分に炎症を取ったところでステロイド外用薬のランクを下げ、悪くなったところだけに適切なランクのステロイド外用薬を使用して炎症を徹底的に抑えていきます。皮膚の薄い顔などはステロイド外用薬のような副作用が出にくく、炎症を取る効果のあるプロトピック軟膏を使用し、もっと軽快したら敏感肌用として市販されているローションやクリームなどで乾燥しやすいところやかゆみのあるところ、炎症がおきやすい場所などに油分でバリアを作るようにスキンケアをします。このようにコントロールすることで、悪化症状の度合いが小さくて済むようになってくることもあるのです。上手にセルフコント ロールしていくことでアトピー性皮膚炎を持っていても日常生活をするには支障がなく、快適に過ごすことができるのですよ。
対処療法ではなく体質改善して完璧に治したいと思うのですが、どのような治療がよいのでしょうか。
体質を変えることはできませんが、皮膚の炎症をとり、良い状態を保つことでだんだんに良くなっていきます。
ステロイド外用薬を塗るだけではとりあえずその場限りで治しているだけなので、体質改善をしてどんなアレルギーのある場所に行っても悪くならないよ うな体にしたいとおっしゃる気持ちもよくわかります。ちょっとした変化で皮膚が赤くなる自分が情けなくなるときもありますね。でもアレルギー体質は簡単に変えられるものではなく、遺伝子に組み込まれている情報です。体質を変えることはできませんが、皮膚の炎症を取り、良い状態を保つことによってだんだんに薬を使わなくても良い状態に持っていくこともできます。ただこれには個人差や重症度、罹患期間などによっても違います。体質として持っていてもつらい症状が出なければよいですよね。まずは薬を使ってでも日常生活に支障がない状態を目指してはいかがでしょう。アレルギー体質があっても毎日が楽しく、充実した 生活が送ることができれば何の支障もないのではないでしょうか。あまりハードルを高くするとなかなか目標を達成できない挫折感ばかりが大きくなってしまいます。アトピー性皮膚炎は難病ではないので、「何が何でも完璧にアトピー性皮膚炎を治してやる」とそんなにがんばらなくても良い病気だと思います。そんなにがんばらなくてもリラックスして付き合う気持ちになると意外と皮膚症状も良くなって来るものですよ。
とにかくかゆくて全身のあちこちから血が出ています。かゆみにはどのような対策をしたらよいでしょうか。
かゆみ対策には「冷やす」「意識をそらす」「爪を短くする」ことをお勧めします。掻いた後は薬を塗っておきましょう。
アトピー性皮膚炎で一番つらいのはかゆみでしょう。皮膚の表面だけではなく、体の中から次々に湧き上がるような強いかゆみがあります。そして皮膚に炎症があると血管が拡張して浸出液が出てくるために皮膚はスポンジ状になります。それで少し掻いただけでも血や浸出液が出てくるようになるのです。かゆみを取るにはまず外用薬で炎症を抑える必要があります。また体の中のアレルギー反応を抑える抗アレルギー剤やかゆみを引き起こす物質であるヒスタミンの働きを抑える抗ヒスタミン剤などを飲むことによってかゆみが和らぐことがあります。体から血が出るというと普通の人はびっくりしますがアトピー性皮膚炎の人には当たり前のことです。炎症が強い状態だと認識する程度でよいでしょう。
かゆみ対策1 冷やす
どうしてもかゆいときはまず「冷やす」ことが第一です。室温を下げる、冷たいお絞りや保冷剤をハンカチなどの柔らかい布に包んで当てるなど部分的に冷やすだけでもかゆみが和らぎます。かゆみ対策2 意識をそらす
また掻き出すと止まらなくなり、いくら掻いても掻き足らなくなるときがあります。そのような時は「意識をそらす」ことも効果があります。好きな本や雑誌を手に取る、お子さんの場合はじゃんけんやボール投げなど手を使う遊びもよいでしょう。またゲームをやっているとまったく掻かないという方もいます。かゆくて眠れないときはお尻の下に手を敷いて動かせないようにするとか「意識をそらす」ために起きてしまうこともあります。かゆみ対策3 爪を短くする
いろいろ対策をしてもそれでもかゆいのがアトピー性皮膚炎です。掻いてはいけないとがんばりすぎずに掻きましょう。ただつめは短くしていますか?「短く」の状態が人それぞれですが、掻いても傷にならないために深爪するくらいに短く切り、やすりで角を丁寧に削っておくと掻いても傷にもなりませんし痛くありません。一週間に一度は爪を切ってお手入れしましょう。<掻いてもいいんですよ>
掻いてはいけないと小さい頃から言われ続け、それでも掻いてしまう自分に自己嫌悪を覚えたり、暑くなるとかゆくなるからと行動を制限したりする方がいます。そんなに自分を責めることはありません。掻いてもいいんですよ。本当に良くなればかゆくなくなるのです。そして掻いても皮膚がやぶれないのです。そう言う日が来るまで、掻いたあとにしっかり薬を塗って治療しておきましょう。私も掻きながら塗っているうちに次々に痒くなり、手は薬でベトベトになってはいますが体のどこまで塗ったのか、塗っていないのか分からなくなるようなこともよくありましたが、とにかく塗ることが大事なのです。
血液検査でIgEが高いといわれました。これはどのような意味なのでしょうか。
どのアレルゲンが原因となっているかを調べるものと血液中の総IgE抗体数を調べるもので炎症が強いと高くなる方が多いものです。
アトピー性皮膚炎でよく行われる検査に、侵入した異物(アレルゲン)を認知する抗体であるIgE抗体の量を測るIgE-RAST(ラスト法)という検査があります。血液中にダニやほこり、卵などのアレルゲンに対するIgE抗体がどのくらいあるかということを調べて、どのようなアレルゲンに反応するかを調べるものです。0から6までのスコアがあり6が一番強い反応があることを表します。これは何がアレルギー反応を起こす可能性のあるアレルゲンとなっているかを調べるためのものですが、実際に摂取してみて反応が起こるかどうかの方が大切です。血液検査で卵、小麦、大豆が陽性になったからと言って、実際に食べて皮膚症状が悪くなるかは別のことです。食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は別の病気です。実際に食べてみて皮膚症状が悪化することがなければ悪化要因と考えることはないと思います。また陽性に出た物質だけがアトピー性皮膚炎の悪化要因になるわけではなく、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因には刺激物や心の状態など様々なものが絡み合ってできています。
またIgE-RISTという検査もあります。これは血液中の総IgE抗体数を表すもので、成人の総IgEの正常値は170IU/ml位以下と言われています。しかし他のアレルギー疾患、アレルギー性鼻炎や喘息の方よりアトピー性皮膚炎の方のほうが一般的にIgE値が高値になるようです。よくなったら正常値に近づいてくるものですので、検査値に驚くというよりもきちんと治療をしていきましょう。また炎症がひどいのにIgE値が高くならない方もいます。アトピー性皮膚炎にとって検査値は自分の体のアレルギーを起こしやすい物質を知ることと、総IgE数も良くなっている、悪くなっている目安と考えるのがよいでしょう。
1歳の娘がアトピー性皮膚炎と言われましたが大きくなったら治りますか。
悪化させないよう、今のうちにしっかりと治療し、丁寧なスキンケアをするだけでよくなることが多いです。
もちろん良くなりますよ。赤ちゃんのうちは皮膚が弱いのでちょっとした刺激で炎症が起きやすくなっています。だんだん大きくなって皮膚が強くなってくれば刺激に負けなくなってくると思います。いまのうちにしっかり治療をして増悪させないようにしておけばだんだんに良くなって来ますよ。まずは皮膚のバリアを作るために、よく洗って塗るというスキンケアが大切です。洗うのも塗るのもゴシゴシこすらず、せっけんをよく泡立ててやさしく洗い、よくすすいであげてください。そして水分が残っているうちに保湿剤や皮膚科から処方されている外用薬を塗ります。夏の汗ばむ時期は汗をかいたらなるべく早く、石鹸を使わなくてもよいので、何回でもシャワーで洗い流し、保湿剤を塗るのがよいですね。ご両親が正しい知識をもってしっかりと治療をしていけば良くなりますよ。皮膚が弱いからと家の中でじっとしているのではなく、外で思い切り遊んだりしているうちに皮膚も強くなってくると思います。ちょっとスキンケアをするだけであとは普通の子と同じように伸び伸びと育てていってくださいね。
私は妊娠6ヶ月ですが私自身小さい頃アトピー性皮膚炎がありました。妊娠中に母である私が卵や牛乳などを摂らないようにしたら子供はアレルギーにならずに済みますか。また授乳中の母親の食事制限は必要ですか。
お母さんの食事制限は不要です。アレルギー体質を持っていても適切な治療で良くなるという認識で心安らかにご出産ください。
ご自身がアトピー性皮膚炎をもっていると子どもにはこのようなつらい目に合わせたくないと思ってしまいますよね。当会への相談でも自分が制限をしてどんなにつらくても子どもをアトピー性皮膚炎にしたくないというご相談もあります。結論としては食事制限は不要です。ガイドラインでも母親が食物制限をしていてもアレルギー疾患の発症予防には効果がなかったというデータがあります。授乳中も同様で長い目でみた予防効果は証明されていないとのことです。また食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は同じ病気ではありません。食物がアレルゲンのひとつとして影響しているアトピー性皮膚炎のお子さんはいるかもしれませんが、アトピー性皮膚炎はひとつの原因だけでなく、さまざまな要因が重なりあって発症しています。何かを制限して、がんばらなければと思うより、アトピー性皮膚炎になったら適切な対処をすれば良くなると、ゆったりした気持ちで出産、育児をされた方が良いと思いますよ。
2歳の息子がかゆがって夜寝られず、それに付き合う私も寝不足で疲れきってしまいました。これがずっと続くのかと思うと不安です。
睡眠不足だと治療の意欲が減退し、悲観的な気分になりがちです。掻いてもまた治療することで良くなるというように考えましょう。
お子さんがかゆがるのを見ているのはつらいですね。まずは治療をしっかりやることだと思います。外用薬が症状より弱すぎることはありませんか?またご両親が怖がって少ない量しか塗っていないことはありませんか?ステロイド外用薬を怖がってつらい思いをするのは患者である息子さんとそれをみているご両親です。そんなに思いつめる前にしっかりと治療することが大切です。またかゆみを和らげるために抗アレルギー剤や、抗ヒスタミン剤を追加してもらうこともできますので主治医とご相談ください。
かゆがるお子さんにはどのように対処しているでしょう。お子さんの場合、かゆいと訴えることでご両親の関心を向けたいということもあります。掻いてあげるのではなく、「わかったよ」と軽くたたいたり、触ってあげるだけで安心して眠れることもあります。またかゆいと言われて毎回何かしてあげなければいけないということもありません。ある程度掻いても仕方ないと思い、掻いているうちにお子さんも眠ると思います。掻いてしまったらまた外用薬で治療すればよいのです。それよりお子さんにとってもご両親にとっても睡眠は大切です。睡眠不足になるとお子さんの場合は成長に影響が出たり、アトピー性皮膚炎の症状も悪化します。またお子さん、ご両親共に疲れが取れないことにより治療をする意欲が減退したり、イライラしたり、悲観的な考えになってしまうことがあるからです。掻かせないようにしようとがんばることはないのです。掻いてもまた治療すれば良くなります。なので掻いてしまったお子さんを叱ることなくリラックスして付き合っていけるようになっていただきたいと思います。そんなに思いつめないでください。きっと良くなる日が来て、この子が小さい時は大変だったと話せる時がきますよ。
ステロイド外用薬は怖い薬だと聞きましたが本当ですか?
怖い薬ではありません。発売されてから50年以上経っているために作用も副作用も分かっており、正しく使えば大変有効な薬です。
よくステロイド外用薬は「両刃の剣」と言われます。正しく使えば有用だけれども、間違った使い方をすると危ないものだということです。
包丁は指を切る恐れがあるから使わないという方はいますか?確かに指を切る恐れはありますがそれは誤った使い方をしたからではないでしょうか。肉や魚、野菜を切って料理をするためには不可欠なものですよね。このように怖いから近づかないというのではなく、正しく有用に使える知識と方法を持っていれば全く怖いものではありません。自社で開発した高価な飲み薬や塗り薬、また化粧品や入浴剤など効果の実証性の低いアトピービジネスの業者や、ステロイドを使わずに科学的根拠の少ない独自で開発した薬や治療法などで治療する医師などの中には、ステロイド外用薬のことを否定してすぐにやめるように言う人もいますが、アトピー性皮膚炎で悩んでいるのはあなた自身です。その苦しみを取り除き、良くして気持ちよく過ごせるようになるためにステロイド外用薬は必要な薬です。いろいろな情報に惑わされることなく、主治医と一緒に上手に使っていきましょう。
アトピー性皮膚炎にステロイド外用薬は必要なのでしょうか。
必要です。アトピー性皮膚炎はその名の通り皮膚に炎症が起きている状態です。炎症を抑えてもとの皮膚に戻すにはステロイド外用薬が一番効果が認められている薬です。
その他にステロイドの内服薬や新薬のネオーラルという内服薬の免疫抑制剤も炎症を抑える効果がありますが、内服することによって全身の炎症を抑える作用があります。重症の方では内服する場合もありますが、通常アトピー性皮膚炎の場合は皮膚の一部分に発症していることが多いので、炎症が起きている場所だけに使用することができる外用薬を使うことが基本です。炎症がなくなれば保湿剤に替えることができます。
アトピー性皮膚炎は「燃えやすい紙」のような性質を持った敏感な皮膚があり、それが様々な刺激によって燃え出すと消すための「水」や「消火剤」が必要になってきます。それがステロイド外用薬なのです。皮膚が火事になっている状態では炎の大きさによってバケツの水で消える場合もありますし、消防車を呼んで放水したり消火剤を撒いたりしなければいけないかもしれません。火が鎮火したら「燃えやすい紙」のような敏感な皮膚をいつも湿らせておいて「燃えにくい紙」の状態にしておく、これが保湿剤の役目です。このようにステロイド外用薬を上手に使ってアトピー性皮膚炎を治療していくのです。
ステロイド外用薬の副作用はどのようなものありますか。
外用薬の副作用は皮膚を見ればわかるものなので定期的に診察を受けて皮膚を見せていれば心配する必要はないのです。
ステロイド外用薬は皮膚から吸収されるものであり、飲み薬や注射剤に比べるとごくわずかの量しか血液中には入りません。また入ったとしても人間の体は薬を肝臓で代謝するようにできているので専門医の指導で正しい量を使っていればほとんど副作用が起こることはないのです。しかし患者としてステロイド外用薬の副作用として下記のようなことがあることは知っておくと良いと思います。このように外用薬の副作用は皮膚を見ればわかるものばかりなので定期的に診察を受けて皮膚を見せていれば心配する必要はないのです。
また掻き壊して皮膚がボロボロとむけていたり、炎症があって皮膚が赤く盛り上がっている皮膚のバリアがない状態では、皮膚の細胞の間に隙間ができているためにステロイド外用薬は吸収されやすくなりますが、良くなってきて皮膚のバリアができてくると皮膚の細胞の隙間もなくなり、また皮膚の一番上に皮脂の膜ができることにより体内に入りにくくなってきます。そして良くなってくると塗る量も減って来るので副作用の心配も減ってくると思います。
主な副作用
- 皮膚萎縮(特にひじの内側や膝の内側の皮膚が薄くなること)
- 毛細血管拡張(血管が網目のように見える)
- ステロイド紫斑(内出血しやすくなる)
- ステロイド潮紅(赤みが増す)
- ステロイド座瘡(にきび)
- 多毛(体毛が少し濃くなる)
- 酒さ様皮膚炎(顔が赤くブツブツする)
- 口囲皮膚炎(口の周りが赤くブツブツする)
- 細菌感染(黄色ブドウ球菌等)おできやとびひができる
- 真菌感染(カビ)真菌が付くことによって皮疹が悪化する
ステロイド外用薬を塗ると皮膚が黒くなると聞きましたが本当ですか。
副作用ではありません。炎症が強かったり長引いているところに色素沈着が起こったものです。
アトピー性皮膚炎は皮膚が炎症を起こしているため、炎症のあったところは色素が沈着し易くなっています。一番多いのが首の前部で、「ダーティネック」と言われてアトピー性皮膚炎の特徴とも言われています。これはステロイド外用薬の副作用ではありません。強い炎症が繰り返されることによって、メラニンなどの色素が皮膚の深い細胞に落ちて取れなくなってしまうからなのです。普通の日焼けの黒さですと1ヶ月もすると皮膚の細胞が下から持ち上がってきて上の皮膚が垢となってとれ、そのときに一緒に色素も取れていくようなのですが、アトピー性皮膚炎の強い炎症が繰り返されるところでは皮膚の深いところに色素が落ちてしまうようです。皮膚を黒くさせないためにも早く炎症を取ることが必要です。炎症がとれて皮膚の状態が良くなってくると、黒くなっていた皮膚も徐々に色が取れてきます。ビタミンCなどを処方してもらうのもよいかも知れません。
また皮膚が薄いところで強い炎症が起こると反対に色素が抜けてしまうこともあります。これも強い炎症と掻き壊しを繰り返した結果ですので、炎症を早く取ることが大切です。私も首は黒く襟の開いた服を着るのにまだ抵抗がある状態です。首の前部はひどいときには皺のところでひび割れ、滲出液が出る状態のときがありました。そのようなときに適切な強さのステロイド外用薬を使わず、弱いステロイド外用薬で何とかしようとしていたのが原因だと思います。また膝の前側やひじの外側などあちこちで色素が抜け落ちているところがあります。皆さんはこのようなことがないように、適切な強さのステロイド外用薬を使って炎症を長引かせないように治療をしてくださいね。
ステロイド外用薬はやめるとリバウンドがあって、より悪くなってしまうと聞きました。
ステロイド内服薬ではリバウンドが起こることがありますが、ステロイド外用薬ではリバウントするということはまずありません。
それはステロイドの内服薬のことです。ステロイドは体の中の副腎皮質で作られるホルモンですが長期間内服していると副腎皮質の機能が抑えられて体内で作られなくなります。そのためステロイド内服薬を急にやめると体に必要なホルモンが足りなくなって症状がぶり返して急に悪化したり、前にはなかった高血圧や骨粗しょう症などの症状がおこることもあります。ステロイド外用薬ではそもそも外用薬自体に含まれているステロイドは内服に比べてずっと少ない量ですし、皮膚に塗ることでその部分にしか効かないような仕組みになっています。医師の指示に従って適切な量と強さのステロイド外用薬を使っていれば体の中に入るステロイドの量はごくわずかですので、血中濃度が上がり、副腎皮質の機能を抑制されるようなことはありません。ステロイド外用薬ではこのようにリバウンドが起こることはまずないのです。
アトピー性皮膚炎でよくリバウンドといわれているのは、ステロイド外用薬を使って炎症を抑える治療をしている途中で、中途半端に治療をやめたために症状がぶり返していることが多いのです。皮膚の下の炎症がきれいに治まっていないうちに表面が良くなったからといきなりやめてしまうと皮膚の下の炎症がぶり返し、悪化していってしまうのでリバウンドだと思ってしまうのではないでしょうか。ですからステロイド外用薬でしっかりと炎症をとり、そして炎症がなくなったら保湿剤でバリアを作るという治療をしていけば、リバウンドといわれているようなより急激な症状の悪化はないと思います。
ただアトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。また皮疹が出てきてしまうのは仕方がないことと思ってまた治療を続けていくことにより、だんだんに良い状態が続いてくるようにするのがよいと思います。
ステロイド外用薬は長期間塗っていると薬から離れられない体になってしまうのではないでしょうか。
正しい治療をして良くなっていけば薬がいらない体になることができるのです。むりやり薬を抜くのではなく、使わなくてもよい状態にコントロールすることにより自然に離脱することができます。
よくアトピービジネスの広告やステロイドを使わない主義の人は「ステロイド漬」になるという言葉を使って、ステロイド外用薬を使っていると、一生使い続けなければいけなくなってしまうからすぐにやめるようにと説明するために怖くなりますよね。でもステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎の症状が良くなっていないのにも関らず、やめるだけでは良くなるものではないのです。ステロイド外用薬を使っていくうちに良くなって、使わなくてもよい状態になってくるものです。「強制離脱」ではなく「自然離脱」できるのです。私も長い間ステロイド外用薬を全身使わなければ社会生活ができない状態で、ステロイド外用薬なしでは生きられない状態に不安と悲しみのある日々が続きましたが、今では副作用もなく使わなくてよい部分もずいぶん出てきました。良くなったり悪くなったりを繰り返す病気なので、このまま一生使い続けなければいけないのか、どんな副作用がでてくるのかなどいろいろ不安になることもあると思いますが、正しい治療をして良くなっていけば薬がいらない体になることができるのです。希望を持って治療していきましょう。
プロトピック軟膏はステロイド外用薬とどのように使い方が違うのでしょう。
炎症のある部分だけに効くので副作用の心配が無く皮膚の薄い顔や首にも安心して使える薬です。
プロトピック軟膏はステロイド外用薬より分子量が大きいため、炎症があって皮膚のバリアが弱い(皮膚が剥がれ落ちていたり、皮膚の細胞の隙間のあるところ)から多く吸収し炎症を抑える効果があります。そして皮膚のバリアがしっかりしている正常な皮膚は、皮膚の細胞同士がきちんとくっついていることや皮膚の表面に皮脂が分泌されて皮脂膜ができているために、プロトピック軟膏が吸収しにくくなるため顔や首などの皮膚の薄い部分に塗っても炎症のある部分だけに効くので副作用の心配が無く安心して使える薬です。
ステロイド外用薬のⅢ群である「強い」ランクの炎症抑制効果があると言われていますので顔などの炎症には効果がありますが、体や四肢などの皮膚が厚い部分にはプロトピック軟膏の成分の分子量が大きいために皮膚に浸透しにくくなるために効きにくくなります。またⅢ群のランクでは効かないような炎症が強い部分には効きにくいためステロイド外用薬を使った方が炎症が抑えられると思います。また成人では1回5g(チューブ1本)、1日10gまでという制限がありますので、全身どこでも同じものを塗るのではなく、医師に指示されたとおり、部位や炎症の度合いによってステロイド外用薬と使い分けていった方がよいと思います。
プロトピック軟膏を塗るとしみて痛かったり、かゆみが増すので使いたくないのですが。
プロトピック軟膏の一番使いづらいところがこの刺激感です。あまり炎症の強くない顔の一部分から、塗る範囲を徐々に広げていくのもよいかも知れません。
炎症の度合いによっても違いますが、顔を炎で焼かれるような痛みを感じる方もいますし、少し熱いな、火照る感じがするという程度の方もいます。また弱い刺激感でかゆみが増すという方もいらっしゃいます。刺激感が強い場合はステロイド外用薬を短期間使い、ある程度炎症を抑えてからプロトピック軟膏を塗ると刺激感が少なくなります。あまり炎症の強くない顔の一部分から塗る範囲を徐々に広げていくのもよいかも知れません。また顔を洗ったりお風呂に入ったりして塗ったところに水分がつくと火照りや沁みるような感覚がありますが、炎症が治まってくるとなくなってきますので心配せずに使ってみてください。プロトピック軟膏は顔の炎症を取るのに大変良い薬なのですが、この刺激感のために自分には合わないと思って止めてしまう方が多いのです。2~3日から1週間くらいで皮膚が良くなってバリアができてくると、この刺激感はなくなってきますので、クーラーの風や保冷剤を柔らかいハンカチなどで包んだもので顔を冷やした り、掻きながらでもよいので主治医に指示された期間はまずは塗ってみてください。顔の炎症がとれると心も軽くなりますよ。
プロトピック軟膏を塗って日光に当たらないようにといわれましたが、夜しか塗れないのでしょうか。
通勤、通学や買い物など日常生活での外出は通常通り行っても大丈夫です。
処方される際に日光に当たらないようにという注意を受けることがあります。これは薬を開発する段階のネズミを使った実験で、プロトピック軟膏を塗って強い紫外線を当てると皮膚ガンが発生したことによります。ただしこれはネズミを使った実験上のことで、プロトピック軟膏を処方された人が皮膚ガンになったということではありません。
処方される際にプロトピック軟膏を塗った際に日光に当たり過ぎないようにと言われるのは、長時間にわたり屋外で日光浴やスポーツをするような場合という意味です。通勤、通学や買い物など日常生活での外出は通常通り行っても大丈夫です。それより1日2回使うというように言われたらきちんと2回塗ることが大切です。炎症をきちんと抑えるとずいぶん楽になりますよ。
アトピー性皮膚炎があるために私はやりたいことが何もできない。
アトピー性皮膚炎でもできることはたくさんありますよ。まずは自分が楽しいと思うことをやってみませんか。
アトピー性皮膚炎は「ちょっと皮膚が弱い」ので他の人より少しスキンケアをする必要がありますが、あとは普通の人と同じように生活ができるはずです。でも顔や体の炎症が強いと恥かしくて外に出たくなくなったり、人と会うのがつらかったりしますね。まず正しい治療をして皮膚の状態を良くしていくことが第一ですが、なかなかすぐに良くならない場合には自分がアトピー性皮膚炎であることを受け入れることが大切です。
そのうえで完治を目指すのではなく、上手にコントロールして、付き合う方法を見つけていきましょう。「アトピー性皮膚炎があるから何もできない」のではなく、「アトピー性皮膚炎でもできること」ってたくさんあるのではないでしょうか。まずは楽しいことからやってみませんか!いろいろなことに少しずつチャレンジしていくことによって自分に自信が生まれ、いろいろなことができるようになっていくと思いますよ。せっかくの人生、アトピー性皮膚炎だからと嘆くだけでなく、充実したものにしていけるように積極的に生きていくようにしては如何でしょうか。
なぜ私だけがこのような汚い皮膚でいなければいけないのでしょう。周囲の人から見られているようで恥ずかしいです。
自分が輝けるものをみつけていきませんか。前向きな考えができるようになると周囲の目も気にならなくなってくると思います。
そうですね。私もずっとそのように思っていました。友達は真っ白で柔らかそうな皮膚をしているのに、なんで私だけがこんなに汚いの?全身かゆくて痛くてなんでこんなにつらい目に合わないといけないのという気持ちになってしまいますね。でもいつまでもそのように思っていても何も解決していきません。少しずつ前向きな考えができるようになるといいですね。
人はそれぞれいろいろな悩みを持って生きているものです。きれいでおしゃれな人で体は健康でも家族の不和がある人、経済的に恵まれない人、障害を持って生まれた人などたくさんの苦しみや悲しみを持って生きている人たちがたくさんいます。皮膚がきれいなだけで幸せかというとそうでもないようです。
つらいときは周りから何を言われても自分が世の中で一番かわいそうな人間だと卑屈になってしまいがちです。そこから抜け出るのも自分の気持ちひとつです。人と比べてできないこと、つらいことを数えていてもだれも助けてくれるわけではありません。小さなことでも自分にできることをみつけ、少しでも楽しいことを見つけて笑顔になってみませんか?
アトピーだからと落ちこんで下を向いているとなおさら人に見られている気になってしまいます。内面を磨くことによってあなたらしい美しさがでてくるものです。肌が汚くても、何か自分が輝けるものを見つけてみませんか。自分に自信が持てるようになると、他の人の視線なんて気にならなくなりますよ。
こんな汚い皮膚では恋愛も結婚もできないのではないかと将来が不安になり悲しくなります。
恋愛や結婚に積極的になれない気持ちもわかりますが、相手はあなたの皮膚を見ているのではなく、あなた自身がどのような人かで好きになるのだと思います。
そうですね。自分の皮膚を見ると自信がなくなって積極的になれなくなってしまいますね。でもアトピー性皮膚炎でも恋愛をして、大切な人と素敵な日々をすごしている人もいますよ。体験記のところにもあるように結婚をしてお子さんにも恵まれ、幸せな家庭を築いている人はたくさんいます。恋愛や結婚に積極的になれない気持ちもわかりますが、相手はあなたの皮膚を見ているのではなく、あなた自身がどのような人かで好きになるのだと思います。アトピー性皮膚炎があるからと、下を向いて消極的な毎日を過ごしていませんか?今の自分にできることを精一杯やり、積極的にいろいろなことにチャレンジしていくことによって内面から輝いてきて、さらに自分を磨いていけば、あなたらしい魅力に惹かれる人がきっと現れますよ。
先日も当会のアトピー性皮膚炎担当スタッフの結婚式に出席してきました。アトピー性皮膚炎が悪化したときには普通に接してくれ、良くなったときには一番に喜んでくれた人で、この人ならこの先どんなことがあっても私を受け入れてくれると思い結婚に至ったとのことでした。アトピー性皮膚炎を持っていることを理解し、それを含めてあなたのことが大好きだと言ってくれる人と出会えるといいですね!
かゆがる子どもを見ているとかわいそうでアトピー性皮膚炎に良いと思われることは全部やってあげたいと思います。どんな方法がありますか。
アトピー性皮膚炎をやっつけようとがんばるのではなく、上手に付き合っていく方法をみつけてみませんか。
アトピー性皮膚炎のお子さんを見ているとつらそうで、代わってあげたいというようなお母さんや、小さい頃からよい病院やよい治療情報を求めてたくさんの努力をしていらっしゃる方もいます。当会への相談でも「あの治療法もやりました」「この治療法もやりましたがよくなりませんでした」という方もいます。お母さんが一生懸命になる気持ちもわかりますが、お子さんの気持ちはどうなのでしょう。当会の相談で医療不信になり、何も治療をしたくないとおっしゃる方ほど小さい頃からさんざんいろいろな治療をし尽くして疲れてしまったという方が多いのです。アトピー性皮膚炎を早く、完璧に治してあげようとがんばっているお母さんの気持ちはわかりますが、あまり思いが強すぎると逆効果になってしまうこともあるのです。お子さんと一緒に自分なりのステロイド外用薬の使い方や少し皮膚の手入れをするだけで、普通の人と同じように生活できることを目標に、アトピー性皮膚炎をやっつけるのではなく、アトピー性皮膚炎であっても明るく過ごせるように、アトピー性皮膚炎との上手な関わり方を見つけて行く方がリラックスして付き合うことができるのではないでしょうか。
アトピー性皮膚炎を持った息子がかわいそうで将来も不安になります。
小さい頃から「かわいそう」と言われ続けているとお子さんも劣等感をもってしまいます。
当会への療養相談でも「こんな体に産んでしまってかわいそう」とか「こんな皮膚をしていると学校でいじめられるから早く治してあげたい」「こんな体では結婚できないのではないか」というお母さんからの相談があります。アトピー性皮膚炎をもっていることはつらいですが、小さいときからかわいそうと言われ続けていると「アトピー性皮膚炎って大変な病気なんだ」「早く治さないといじめられちゃうんだ」とお子さんも思ってつらくなってしまいます。アトピー性皮膚炎なんて「皮膚が少し弱いだけ」とお母さんが捉えている方が「それくらいどうということはない」と前向きな気持ちになれると思います。それがお子さんに伝わり、「僕はアトピー性皮膚炎があるけど、どうということないさ」と普通に過ごせると思います。
それよりかわいそうと言わずに「アトピーでもあなたは私の大切な子」と抱きしめてあげてください。そうすると自分の存在に自信を持つことができ、安心して積極的に生きることができると思います。アトピー性皮膚炎自体はそんなに悪くないのに皮膚に劣等感をもち、さらには自分自身に劣等感を持つようになってしまう方のなかには小さい頃からかわいそうと言われ続け、顔が少し赤いだけでも他人に見られるのがつらくなり家に引きこもってしまう方もいます。人は外見だけで見るものではなく、その人自身がどんな人であるかの方が大事だということをお母さんから伝えてあげてくださいね。
祖父母からうちにはアトピー性皮膚炎の家系はないと言われてつらい。
自分を責める必要はありません。「治療しているので見守っていてくださいね」と伝えましょう。
正しい治療をしているのになかなか良くならず、また外見に見えてしまうアトピー性皮膚炎は、他人からの意見をいろいろ言われることがありますね。皆さん心配したり親切でいろいろ言ってくださる方もいるのですが、ご両親としては心穏やかに過ごせないときもあることと思います。特に家系にアレルギー体質は無い、あなたの家系が悪いと非難されるとお母さんとしてもどうしようもなくてつらいですね。アレルギー体質やアトピー性皮膚炎の素因は遺伝子に組み込まれているもので、発症するかまた喘息、アレルギー性鼻炎などどのような症状で発症するかわかりません。遺伝子としては持っていても発症しない方もいます。
ですから「今治療をしているので良くなると思いますので見守っていてくださいね」とやんわりと伝えるのがよいのではないでしょうか。お子さんがアトピー性皮膚炎なのはお母さんが悪いのではありません、自分を責めないでください。きっと良くなりますから!
汗をかくと皮膚が悪くなるので部活動をやめさせたいが本人がやめたがらない。
アトピー性皮膚炎があるからと部活動を止める必要はありません。得るものも多いので本人と話し合って決めましょう。
汗は悪化要因のひとつですが、汗対策を完璧にすればアトピー性皮膚炎が良くなるかというと様々に要因が絡み合っているためにすぐに良くなるというものではありません。ですから本人がやりたいことがあればそちらの方が大切です。汗で悪化することもあるという情報や汗をかいたときの対策をアドバイスしやってみて、それでもつらくてやめるかどうか選ぶのは本人です。アトピー性皮膚炎だから部活動ができなかったと思う心の傷の方が大きいと思います。部活動を通してスポーツに打ち込む大切さ、技術の向上、そしてつらい練習を一緒に乗り越えた仲間との友情など大切なものがたくさん得られることと思います。アトピー性皮膚炎を理由にやめることとどちらを選ぶか本人と一緒によく話し合ってみてください。
ご両親が見ていて皮膚がつらそうと思っていても、案外本人は平気な場合もあります。皮膚のことを気にしないお友達にも恵まれて生き生きとスポーツに打ち込んでいる方が素敵ですよ。治療もいい加減になっているとご心配だと思いますが、本人がつらくなったら自然にやると思いますのでその際には正しいアドバイスをしてあげるなど見守っていてあげてくださいね。
どんなものが悪化要因になるのでしょうか。
自分が悪化する時はどういう時なのかを把握しましょう。
なかなか自分ではあたりまえだと思ってしまいわからないものなので、当会の療養相談の中と実際私たち患者が経験した悪化要因になったものを挙げてみました。思い当たることがありましたら主治医と相談して対処していってください。
チェック 悪化要因 汗 日焼け 乾燥 生理前後の症状 精神的不安 疲れや睡眠不足 ダニ・ほこりの多い場所にいないか(部屋・布団・じゅうたん) 刺激のある食べ物(辛いもの・チョコレート) シャンプー、リンス等 チクチクする化学繊維・毛素材の衣服や下着 体が熱くなる状況(入浴後のほてり、陽に当たる、ストーブの当たりすぎなど) 季節の変わり目(秋→冬、春→夏)
悪化要因の考え方と付き合い方を教えてください。
悪化要因は生きていくうえで全部排除することは不可能です。自分の悪化要因になるものを認識し、標準治療をしてもなかなか良くならないときに毎日の生活の中で1つ1つ原因を探して対処していきましょう。
疲れや睡眠不足は体に良くないことはだれでもわかりますが、受験時や仕事が忙しいときなど勉強や仕事を優先しなければいけないときもあります。それを乗り越えるために強めのステロイド外用薬を使用するなどで対処をすることにより、社会生活での目標や自分のやりたいことを優先する場合もあるのではないでしょうか。
<悪化要因対処法>
[掃除]
ダニやほこりはアレルギーを起こしやすいので部屋はじゅうたんをなくし、できればたたみでなく掃除機をかけやすいフローリングにするのがベストです。もちろん借家でじゅうたんやたたみがついている物は簡単に変えることができないと思いますので、できるかぎり掃除機がけをするようにしたほうが良いと思います。掃除機は紙パック式など、排気口から細かいゴミが出ないような仕組みになっているものを選びましょう。掃除機がけをすることによりほこりを舞い上げてしまうので先にフローリングモップでほこりをとっておくのもよいでしょう。部屋の中はできるだけものを置かない様にして掃除がしやすい環境にしておく方がよいですね。
[寝具]
布団も羊毛や羽毛のような生き物の毛はダニがつきやすいので、中の綿はポリエステルがベストです。布団カバーは肌触りの良い綿がよいでしょう。季節ごとに布団の丸洗いに出したり、掃除機がけをするのも有効です。ただ完全にダニやほこりを排除するのは不可能です。家族全員の布団を掃除機がけをしても布団に掃除機がくっつくばかりで、ダニがとれている実感がなく、空しい作業になってしまいますね。完璧を求めずベストの状態を認識したうえで、自分でできるだけで良いと思います。悪化要因排除を徹底するあまり、自分がつらくなってしまっては本末転倒です。[衣服]
毛やアクリルなどでチクチクした感じがある場合には避けたほうがよいですね。綿製品が一番皮膚に気持ちが良いと思います。しかしアトピー性皮膚炎だから洋服が楽しめないのは悲しいことです。自分で皮膚に当ててみてチクチクしないようでしたらポリエステルなどでもよいのではないでしょうか。ツルツルしたポリエステルの生地は絹のように肌触りが柔らかいものもあります。自分が気持ちよいものであればなんでも良いと思います。ただ悪化したときや汗をかいて蒸れやすいときは綿が気持ちよいと思います。ベルトやゴムがきついことや擦れることにより皮膚が刺激されて痒くなることがありますので、お腹の周りや下着のゴムの当たる部分で悪化する場合は締め付けるものがないか調べて緩めてみましょう。[汗対策]
汗をかくと皮膚がしみたりかゆくなったりする場合、スポーツは一切できないのでしょうか。そんなことはありません。こまめに顔を洗う、終わった後に出来るだけ早くシャワーを浴びてスキンケアをする、などの対処をすることで皮疹があってもスポーツを楽しむことはできます。日焼けをすると悪化するという方は、敏感肌用の日焼け止め剤はいろいろありますので自分に合うものを探し、日焼け止めをすることによって夏でも自然を楽しむことができます。日焼けも汗も悪化要因なので何もできないと嘆くのではなく、何をどう気をつけたらできるようになるのかをみつけていきましょう。いままで見えなかった素敵な世界が見えるかもしれませんよ。
食事で気をつけることはありますか。
アトピー性皮膚炎だから食べられない、飲めないと暗くしているより、自分が楽しく過ごすことを優先する方が精神的にもよいのではないでしょうか。
よくアトピー性皮膚炎というと食事制限をしなければいけないと思われる方がいますが、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは別の病気です。3歳くらいまでは腸管が未発達のためにアレルギーを起こしやすい物質が血液中に出やすいので、食物アレルギーを起こすことによって皮膚が悪化するというお子さんは多いようです。ですから何かを食べたらアナフィラキシーで急に具合が悪くなるとか、急にアトピー性皮膚炎が悪化するという場合はその食物を食べない方がよいかもしれませんが、血液検査で陽性反応が出たからと食事制限する必要はないと思います。特に大人の場合は食物よりダニやカビなどの環境抗原が悪化原因となることが多いようです。また刺激物や甘いもの、お酒はかゆみを増すので良くないといわれます。血行が良くなり、体が熱くなるためですが、絶対に食べられないと思うより、自分はどれくらいなら大丈夫なのかを知って楽しんだり、食べすぎたり飲みすぎたりして悪化しても、自分で納得してやっていることだからまた治療すればいいやと思うほうがリラックスして付き合えると思います。アトピー性皮膚炎だから食べられない、飲めないと暗くしているより自分が楽しく過ごすことを優先する方が精神的にもよいのではないでしょうか。ちなみに私は甘いものも大好きですし、仲間との飲み会も大好きです。そのときの体調で症状が悪化することもありますが自業自得だと思ってまた外用薬を塗って治療してでも自分の好きなこと、楽しいことを優先しています。このくらいリラックスして付き合えるようになると楽ですよ。
アトピー性皮膚炎があると化粧品は使えないのでしょうか。
今は敏感肌用のものもありますので、初めはサンプルなど試してみて自分に合うものを見つけましょう。
女性の方はアトピー性皮膚炎でもお化粧をすることで、快適に過ごすことができます。ファンデーションは顔の湿疹が良くならないと出来ない場合もありますが、今は敏感肌用のものもありますので、初めはサンプルなどで試してみて自分に合うものを見つけましょう。ファンデーションで皮膚がカバーされていることで花粉などのアレルゲンが付きにくいということもありますし、皮膚がカバーされていることで汚い部分が目立たなくなり自分に自信が付くことと思います。色素沈着した皮膚や固く皺ができた皮膚をカバーして隠すことによって少しきれいになったような気がしますよ。
また眉を描くだけ、アイメークをするだけ、口紅を塗るだけ、とワンポイントメイクでも少し気持ちが晴れやかになるものです。いろいろに色を楽しんでみてください。そして、顔を掻くと、お化粧が落ちるという意識が働くので、掻くことが少なくなります。お化粧をゼロか100%やるのかと極端に考えず、自分の皮膚の状態を見ながらできる範囲でやってみて、明るく積極的に過ごすことができれば最高なのではないでしょうか。
私も会社に行くときはファンデーションをつけ、眉、アイシャドウ、口紅と付けていくと仕事中は自分がアトピー性皮膚炎だということを忘れてしまうくらい人と会うことに抵抗がなくなっているのがわかります。
アトピー性皮膚炎の皮膚はどのように洗ったらよいのでしょうか。
石鹸やシャンプーは敏感肌用のもありますが普通のものでもOKです。
炎症が強いと皮膚を触るのも痛く、また水分がつくと沁みるので洗いたくなくなるのですが、前に塗った軟膏や古い角質を落とし、細菌感染を防ぐためにも石鹸を使って洗う必要があります。石鹸の種類はなんでもよいのですが、殺菌成分が入っているものは刺激があると思います。また保湿成分が入っているものもありますが、皮膚に残る成分でかぶれる場合もありますのでなるべく石鹸成分だけのものの方が安心でしょう。敏感肌用の石鹸もいろいろ種類がありますので自分の使い心地の良いものを選ぶのも良いと思います。また冬などは汗をかくこともあまりないので石鹸を使わずお湯で流すだけでも良いとおもいます。石鹸を使った方がよいかどうかはご自身の気持ちよさで決めてもよいと思います。ただしシャワーを浴びるだけでもよいので毎日入浴はしてくださいね。皮膚は見た目ではわからないくらい体内からの分泌物や外界からの汚れがついているものです。アトピー性皮膚炎の方はそのようなものにかぶれ易いこともあり、また皮膚がむけてきやすいのでそのような皮膚(落屑)や前に塗った外用薬をきれいに落とすためにもシャワーで洗い流して、皮膚をきれいにしてから新たな外用薬を塗ることが大切です。
また“あかすり”など固いもので洗うと皮膚が傷つきますので、手で洗うか、柔らかいタオルでやさしく洗いましょう。石鹸をよく泡立てて、その泡で包み込むように洗っていきます。ゴシゴシこすることなく泡を滑らすように塗っていきます。少し良くなってきたらタオルを使うのも良いと思います。タオルでよく泡立ててからやさしくなでていってください。
洗ったあとはよく流すことも大切です。石鹸やシャンプー剤が残っているとそれが刺激となって悪化しますので、時間をかけてよく流すことが大切です。額や生え際の炎症が強い方はシャンプーが合っておらず、かぶれていることがありますので、違う種類のものに変えてみるのもよいかもしれません。洗い終わったら柔らかいバスタオルなどで水分をとり、乾ききらないうちにステロイド外用薬や保湿剤を塗るのがポイントです。
民間療法、アトピービジネスについて様々な情報があって何がよいのかわからなくなってきました。選び方を教えてください。
アトピー性皮膚炎の治療に関する情報はたくさんありますが、当会では皮膚科専門医が行っている標準治療をお勧めしています。
標準治療とは日本皮膚科学会などが作成した治療ガイドラインに基づいた、科学的根拠のある治療のことです。ステロイド外用薬を中心とした外用薬を適切に使い、多くのアトピー性皮膚炎に効果があると多数の専門医が認め、実際にたくさんのアトピー性皮膚炎がこの標準治療により良くなっています。
しかしアトピー性皮膚炎が良くなると言われる様々な治療法をやってみたいという気持ちは、同じ患者として理解できますので以下のことを留意してやりましょう。
- 悪くなったらやめる勇気を持ちましょう。アトピー性皮膚炎は、毒が出て治るということはありません。
アトピー性皮膚炎の方は皮膚が敏感でいろいろなものにかぶれ易いので、皮膚に塗るものでかぶれることがよくあります。またステロイド外用薬をすぐにやめなければいけないと言われて急に薬をやめてしまうことによって急激に皮膚症状が悪化することがあります。人間の体は毒をためておく場所はありません。毒が出て悪化しているのではなく塗ったものにかぶれていたり、炎症を抑えていたステロイド外用薬を急にやめたことによる急性増悪なのです。がんばって我慢しているとどんどん悪化したり、ヘルペスウイルスの感染症であるカポジ水痘様発疹症など感染症になって皮膚が悪化し、アトピー性皮膚炎の炎症よりひどい症状になってしまうことがあります。新しい治療に期待して始めたものだとは思いますが、無理して続けるともっとひどい症状になってしまうことがあります。悪化したらまずは中止して皮膚科の標準治療を受けましょう。
- 高額な物や治療には気をつけて!
アトピー性皮膚炎の治療はそんなに高いものを使わなくてもよくなる病気です。また高い金額を払うと、もったいなくて悪化してもやめにくくなります。
- その治療がアトピー性皮膚炎の何にどう効くのかを見極めましょう。
良くなった写真をだけを信じるのではなく、なぜ効くのかを理解しましょう。
- 体質改善や免疫力を高めるなど科学的根拠のないものに鵜呑みにしないようにしましょう。
アレルギー体質は変える事はできません。アレルギーは免疫が過剰に反応する状態です。免疫力を高めたから治るものではありません。